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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   

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先崎彰容「ナショナリズムの復権」 ちくま新書 2013年6月10日

 ナショナリズムという観念形象をどう捉えるか、というのは難しい問題である。著者はこの難問に対して、その基底には「死」への誤解が横たわっているのだ、という認識を踏まえ、現在の日本においてナショナリズムは3つの誤解に曝されていると主張している。

++ナショナリズムが危険であると叫ぶ議論のすべてが、全体主義や宗教、そしてポピュリズムにたちこめる死の匂いを、無条件にあてはめているのだ。第二次大戦が世界中で大量の犠牲者を出した以上、戦後のこの誤解は確かに本質的で納得がいく。
 しかしだからこそ、死の匂いすべてを否定する必要はない、否、してはならない。私たちにとって死は、避けることのできない出来事であり、むしろ勇気をもって匂いの差に敏感でありたいと思う。人間の根源的なあり方にまで遡り、ナショナリズムを考えるとは、そういう意味なのだ。(28~29頁)

 その3つの誤解とは、ナショナリズム=全体主義、ナショナリズム=宗教、ナショナリズム=民主主義という型の認識形態であり、著者はそのような認識がどのように生じてきたのかを、ハナ・アーレントの「全体主義の起源」、吉本隆明の「共同幻想論」、柳田国男の「先祖の話」、江藤淳の「近代以前」、丸山真男の「日本政治思想史研究」という5つのテクストを基底に据え、それらを丁寧に読解することで発生論的に解きほぐし、それらの誤解を脱色したあり得べきナショナリズムの救済を試みている。それが、「ナショナリズムの復権」という書名の含意である。
 さて、個々の行論の詳細に立ち入ることは、ここでは差し控えるが、本書における著者の試みは成功しているといえるだろうか。上に掲げた個々のテクストに対する読解は相応に丁寧で緻密なものだが、私には、本書は、ナショナリズムの前提となる、「国家」という社会形式に対する本質論的な考察がスキップされているように思われた。著者には先験的な「国家」という社会形式への信があり、その信が全ての議論の前提とされている。そして、それが結果として、ナショナリズム=宗教という認識に対する批判を不十分なものにしてしまっている。したがって、個々のテクストの読解については概ね首肯できるのだが、その結論はあまりに文学的に過ぎると感じられた。

++たとえば国家を考えるうちに高坂正堯(一九三四~一九九六)は次のように思った。国家には三つの要素がある。「力の体系」「利益の体系」「価値の体系」この三つがからまりあって国家はできあがっている[高坂正堯「国際政治」中公新書1966]。そして戦後の日本は経済成長=利益の体系だけを国家目標とし、一方で力の体系はアメリカの軍事協力にゆだねてきたのだった。
 そして、価値の体系を置き去りにしてきたのである。
 価値の体系とは、私たち自身の生き方や死に方について考えることである。生死をどう理解し、どう処理してきたか。ここから国家のあり方について考える際、出発するということである。文化や伝統という擦り切れたことばからは出てこない重みがそこにはある。
 私たちは、日本人の死生観と倫理観を、戦後、一切無視してしまった。それを重大な問題だとも思わず、今、経済や政治の混乱に踊らされ日本再生などと言っている。それは過剰なまでに心躍るおしゃべりなのだろう。活気に満ちた話もできるだろうし、愛国の気分すら感じるのかもしれない。しかしその背後に、問い続けなくてはならないことがある。それをナショナリズムの復権と筆者は言っているのである。(220~221頁)

 いうまでもなく、このような著者の見解は、3.11を経過した服喪の言葉として語られている。本書の著者は1975年生まれの近代日本思想史専攻の俊英で、いわき市に在る東日本国際大学の准教授であり、本書の言葉は六畳一間の被災者借り上げ住宅から職場へと通う日々の中で紡ぎだされたもののようである。その意味では著者の立ち位置は正当なものであり、本書の試みには拍手を贈りたいが、それ故に、議論がその特殊性の気圏に滞留しがちな点が気にかかった。
 
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  • 2014/04/08(Tue)16:51
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東西南北人(中島久夫)
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