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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   

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スチュアート・ヒューズ「意識と社会」 みすず書房 1970年3月

 近代ヨーロッパ思想史の泰斗、スチュアート・ヒューズの古典的な名著。原著CONSCIOUSNESS AND SOCIETYのNew Yorkでの出版は1958年。翻訳は生松敬三と荒川幾雄の両氏である。副題は「ヨーロッパ社会思想1890 - 1930」となっているが、本書では、この期間のフランス、ドイツ、イタリアの3ヶ国の社会思想が取り上げられることになる。ただし、この時代は未だ人文科学と社会科学が未分化な状態にあり、この間の変遷を通じて、正に社会思想から社会科学が勃興し、人文科学との区別が成立していくという筋書きとなる。したがって、そこには哲学者、歴史家、革命家、経済学者、社会学者、心理学者、文学者等々といった様々なカテゴリーに属する人々が登場することになる。
 本研究をなすにあたり、著者の視線は18世紀の啓蒙思想を起点に据えている。

++この研究の全体を通じて、わたくしが分析を進めていく基本線・視点は十八世紀の啓蒙思想にあるということである。わたくしの立場は、意識的に「十八世紀」的なのだ。われわれはだれでも、多かれ少なかれ、啓蒙の子である、とわたくしは信じている。西洋社会の成員たる文明人- 二世紀以上にもわたる人間的伝統の後継者たち -は自分の時代の政治的・社会的動向を、ほとんど必然的にこの立場から判断していると思う。(20頁上段)

 この本書の立脚点は、著者が「十八世紀哲学に関する現代最大の歴史家」と評価するエルンスト・カッシーラーの『啓蒙主義の哲学』における信仰告白を踏襲するものである。著者の見解では、本書で論述される社会思想家たちが自らの課題とした中心問題の一つが「啓蒙思想の批判」とみなされるが、それらの「反啓蒙主義的感情の多く」は本来の18世紀的伝統に対する反発というより、それを「十九世紀後半に歪曲したかたちで再生した」実証主義の流行に差し向けられたものというべきだ、と主張されている。

 さて、本書で取り上げられる社会思想家たちであるが、著者はこの期間における最も偉大な思想家として二人の名前を掲げている。それがフロイトとヴェーバーであり、本書のタイトルはこの両名が切り開いた知的領域に向けて捧げられたものということができるだろう。そしてもう一人、著者がこの両名に匹敵する偉大な思想家とみなしているのがイタリアの歴史家、ベネデッド・クローチェである。この日本ではあまり知られていないイタリアの知的巨人について、著者はまず次のように紹介している。

++明らかに、この時代にひときわ高くそびえ立っている人物は、ジークムント・フロイトである。そしてフロイトについで重要なのは、マックス・ヴェーバー-法学者、経済学者、歴史家、社会学者、哲学者-で、かれはずばぬけた知的能力と多面性をそなえ、その健康をも脅やかした絶望的な諸矛盾を不屈剛毅の意志力によって辛うじてつなぎとめていた。第三に挙げねばならないのは、ベネデッド・クローチェであろう。この思想家は、独創性においては若干欠けるところがあるが、半世紀にわたって学問・哲学上の一種の独裁権をふるったかれのイタリアにおける影響は、今日では類例を見ないほどのものであった。われわれ歴史家がかれに負うているものは、歴史の方法および哲学的前提に関するもっとも強力な現代的批判である。(14頁下段)

 本書は、この3人を中心に据えながら、様々な思想家について論及しており、その様はこの期間に輩出した社会思想の一大展示会場の観がある。その全てをここで紹介することは不可能であるが、本書のアウトラインを簡単に紹介しておこう。まず、本書は以下に示す10の章によって構成されている。

 第一章 いくつかの予備的考察
 第二章 一八九〇年代-実証主義への反逆
 第三章 マルクス主義批判
 第四章 無意識の発見
 第五章 ジョルジュ・ソレルの現実探求
 第六章 新理想主義の歴史観
 第七章 マキアヴェルリの後裔-パレート、モスカ、ミヘルス
 第八章 マックス・ヴェーバー-実証主義と観念論の克服
 第九章 ヨーロッパの想像力と第一次世界大戦
 第十章 一九二〇年代の十年-裂け目に立つ知識人

 第一章は序論、第二章及び第三章はこの時代の社会思想全体を規定している一種のパラダイムともいえる実証主義批判、及びマルクス主義批判という観点から、様々な思想がそれらとどのように対決していったのかが概観されている。
 第四章以降が本書の本論というべきパートになる。
 第四章の無意識の発見はもちろんフロイトの業績に帰するものであるが、その発見を準備した先行的な思想として、エルンスト・マッハの『感覚の分析』、ハンス・ファイヒンガーの『かのうようにの哲学』、ウィリアム・ジェームズの『宗教的経験の諸相』といった著作の概要が示される。そしてフロイトに先行する直観の哲学の総帥としてベルグソンの哲学が論じられ、この時代におけるベルグソニズムの隆盛が何を意味していたのかを解き明かそうと試みている。ベルグソンの研究領域とフロイトのそれはほぼ同様の範囲に収まるのだが、フロイトはベルグソンそのものにはなにものをも負うていないとされている。両者ともその研究の過程で「人間の意識に関する本質的に非物質的な概念」(85頁下段)に到達しているのだが、それを「無意識」として定位したのはフロイトであり、ベルグソンは忘れ去られていく。
 先に示したように、著者はフロイトこそこの期間に出現した最重要な社会思想家と位置づけているわけであるが、フロイトの生涯は、無意識の発見に至る臨床家としての時期が認識論と形而上学に縁取られた時代とみなされ、その社会哲学は、『幻想の未来』に始まる晩年の15年間に著された諸著作において形を得るものとなったと捉えられている。
 第五章は、日本では『暴力論』の著者としてのみ知られるソレルの思想が論じられる。ソレルの立ち位置は、「かれの精神は、二十世紀初頭のほとんどすべての新しい社会学説が吹き通した風通しのよい十字路のようなものであった」(111頁上段)と規定されている。いわばソレルという思想家はこの時代の学際ネットワークの結節点に位置するような思想家だったようである。その奇矯な精神は批判的思想家としてはこの上なく強力な存在であったが、概念の構築には全く不向きであったようだ。その最晩年においてソレルは漸く抽象的研究に着手したようだが、そこで見出された概念は断片に留まったままとなってしまったとされている。

(続)
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John

  • by Smithk21
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  • 2014/04/26(Sat)01:37
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