一人称小説である。
おそらくは今から数年後から十数年後、そうなっているかもしれない日本。
++ここはどこにでもある一つの街だ。先住民系と移民系の二つのサッカークラブがある。一見対立しあっているが、実はそんな簡単じゃない。グループは先住民系、中華系、ラテンアメリカ系の三つに分かれる。言語的には日本語、中国語、ポルトガル語、スペイン語の4つになる。(改行)4つの言葉を話し、3つに分かれた体を持ち、2つの心が溶け合う、1人の人間。(改行)それがこの街だ。ここで生まれ育った誰もが、この街を自分の内に持っている。(p.255)
この小説は、そんなふうにグローバル/グローカル化してしまった日本の地方都市を舞台として設えた冒険小説であり、主人公は、先住民系高校生の「おれ」である。
おれには、ブラジル系移民のフットボールフリークスでダービーマッチに熱狂するジオと、ドグラマグラを愛読するミステリマニアで、この街に広く移民を受け入れる決断をした市長の孫であり、それを誇りに思うと共に、そのことを誇りとすることができず、純潔主義者と結託しようとしている父親に抗うサチコという、同級生の二人の友がいる。
よくある青春のトリアーデだが、ある日ジオが不慮の死を遂げてしまうところから物語は動き出す...とまあこのような展開なのだが、その文体に漂う本格感とドライな世界構築にはどことなく伊藤計劃を彷彿とさせるものがある。
今後に期待したい。
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