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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   

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南極点のピアピア動画 野尻抱介著(早川書房 2012年2月23日)

 野尻抱介、なんと五年ぶりの新刊だそうである。
 本作は、表題作で提示された世界観のもと、以下三編の連作によって、ネットと宇宙開発、そして地球外知的生命体とのファーストコンタクトまでを含めたひとつのストーリーを構成している。
 なお、掉尾を飾る「星間文明とピアピア動画」は書き下ろし作品である。
 以下、各編のテーマを簡単に示すと、

 南極点のピアピア動画:月への隕石衝突によって生じた地球の双極ジェットによる宇宙旅行(宇宙男)プロジェクト
 コンビニエンスなピアピア動画:放射線によって突然変異した蜘蛛が吐き出す炭素繊維による軌道EV開発プロジェクト
 歌う潜水艦とピアピア動画:ボーカロイドを搭載した潜水艦による海獣(ここではクジラ)との対話と、海底に潜んでいた地球外知的生命体とのファーストコンタクト
 星間文明とピアピア動画:人類とのファーストコンタクトを成し遂げた地球外知的生命体が、対人類接触用のインターフェースとしてボーカロイドの身体を採用し、人類社会の中で自己増殖する過程を描いたもの

 ここで軸に据えられている「ピアピア動画」とは(株)ドワンゴが運営するニコニコ動画をモデルとしたものだが、本作ではP2P技術を採用し既存のTVより普及したメディアになったものと設定されている。
 また、表紙カバーに描かれているツインテールの少女は、やはり近頃のファミリーマートのCM等でもお馴染みのボーカロイド「初音ミク」をモデルとしているが、本作では、それは「小隅レイ」として登場する(このネーミングは、ラリイ・ニーブンやJ.P.ホーガンの翻訳等で知られる小隅黎(柴野拓美)に由来している)。
 だが、今回のファミリーマートの初音ミクによるプロモーションは、寧ろ本作からコンセプトを頂戴したものだろう(これまた本作には「ハミングマート(ハミマ)」なるコンビニエンスストアチェーンが登場する)。
 そして、ここまで語れば、本作の示すファーストコンタクトのヴィジョンがどのようなものとなっているかは、ある程度想像がつくだろう。非常に楽天的かつヲタクな展開ではあるのだが、それを見事に押し通してしまうところは、流石に野尻抱介である。
 あとは、読んだ方のお楽しみということで。
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STEINS;GATE

 5pb./Nitroplusによる同名のコンピュータゲームを原作としたTVアニメーション、全24話+1話。
 総監督は、Fate/Stay Nightのシリーズ構成を手がけた佐藤卓哉。

 舞台は2010年夏の秋葉原。
 陰謀論的世界観に侵された厨二病から抜け出せない東京電機大学の1年生岡部倫太郎は、狂気のマッドサイエンティスト鳳凰院凶真(ほうおういんきょうま)を自称し、幼馴染のコスプレイヤー椎名まゆり(マユシー)、ヲタクでハッカーの橋田至(ダル)を構成員とする未来ガジェット研究所なるラボを構え、世界の支配構造の変革をめざし、なにやら怪しげな発明行為に勤しんでいる。
 ラボの位置は秋葉原駅から中央通りを上野方面に向かい、末広町の交差点を蔵前通りに左折、次の信号の一本手前の路地を左に入ったところにある雑居ビルの2階と設定されている。
 物語は、ラジオ会館内のイベントホールで行われた中鉢博士のタイムマシンに関する研究発表会から始まる。
 岡部は、マユシーとでかけたその研究発表会で、18歳でSCIENCY誌に研究論文が掲載された天才少女、牧瀬紅莉栖(マキセ・クリス:クリスティーナ)と出会う。ところが、岡部はその数分後にラジオ会館の8階奥で大量の血溜まりの中に倒れているクリスを目撃し、そのことをダルへ携帯メールで報告した直後に眩暈に襲われ、無人の秋葉原の幻像を見る。
 岡部が我に返ると、ラジ館屋上には人工衛星らしきものが墜落しており、周辺は警察によって封鎖されている。そして、さっき送ったはずのメールはなぜか1週間前の日付で受信されており、周囲の知人が話すここ最近の出来事と岡部の記憶の間には、齟齬が生じていた。そして眼の前に現れる死んだはずのクリス。驚愕する岡部。
 事情に興味を抱いたクリスを巻き込んでの検証の結果、未来ガジェット研究所の発明品の1つである「電話レンジ(仮)」(未来ガジェット8号)が、偶然にも携帯メールを過去へと送るタイムマシンとしての機能を備えていたことが判明。岡部たちはタイムマシンの機能とその機序を検証するために、徐々に周囲の人間を巻き込みながら、過去を改変する情報を担ったメールを送り続けるが、その度に世界は様相を変えていく。クリスが「Dメール」と命名した、過去へのメールを送るたびに「世界線の移動」と呼ばれる現象が発生し、世界が変わっていくのだが、なぜか岡部の記憶だけはそのままに、メールのメッセージ内容に影響を受けた人々の過去が改変されていく。
 そして、繰り返された世界線の変更は、やがて決定的な閾値を越え、はじめに岡部がいた世界(β世界)と決定的に異なるα世界へと迷い込む。それは、椎名まゆりの死が決定されてしまった世界であり、岡部には容認することのできない世界だった。
 岡部は椎名まゆりの生存を取り戻すために、時間跳躍を繰り返し、無限とも思われる時間のループに囚われながらも一つ一つ過去改変の履歴を遡行していく。だが、その先にはより残酷な運命が待ち受けていた...

 本作のストーリー構成を要約すると、ざっと上記のようになるが、物語としての伏線の張り方は見事であり、その完成度は非常に高い。文句なく傑作である。昨今はゲームを原作としたアニメーションが非常に多いが、本作はゲームもプレイしてみたいと思った初めての作品である。
 時間のループや改変といった点では、涼宮ハルヒシリーズや魔法少女まどか☆マギカに類比的な構成ともいえるが、道具立てはもう少しマニアックな方向に振ってあり、魅惑的なガジェット類で彩られている。

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裸者と裸者 孤児部隊の世界永久戦争 打海文三著(角川書店2004年10月)

 世界的な金融システムの破綻から、国民国家としての政体が崩壊し、内乱状態に陥った近未来の日本という設定で描かれた小説。発表は2004年と8年前の作品である。本編には続編となる「〈応化戦争記〉シリーズ」として以下が存在するようだが、私は未読である。

 愚者と愚者 上 野蛮な飢えた神々の叛乱(角川書店 2006年9月)
 愚者と愚者 下 ジェンダー・ファッカー・シスターズ(角川書店 2006年9月)
 覇者と覇者 歓喜、慚愧、紙吹雪(角川書店 2008年10月)

 本編は上下巻で合計700頁ほどの大冊だが、内容的にも上下巻に対応した二部構成となっている。
 上巻で描かれるのは、茨城県北部から福島県いわき市にかけた常盤エリアを舞台した内乱とそこで成長していく孤児たちの物語であり(「孤児部隊の世界永久戦争」)、内乱で大量発生した孤児たちが様々な辛酸を舐めながら力を掴み、悲惨な現実のなかで成長する様子が描かれている。
 下巻では、ところを現在の多摩ニュータウンがスラム化した九竜シティに移し、そこに侵攻した孤児たちの部隊を構成員とする常陸軍(ヒタチグン)部隊と首都東京を拠点とする政府軍部隊との衝突を背景に、九竜シティに跋扈する民族マフィアやナショナリスト集団、そして上巻にも登場した月田桜子、椿子の双子の孤児姉妹を首領とした女性のみのマフィアパンプキン・ガールズと、東京を根城とする日本最大のマフィア集団、東京UF等との抗争劇となっている(「邪悪な許しがたい異端の」)。

 さて、感想であるが、正直なところ近未来小説としてはあまり買えない展開である。世界的な経済システムと国民国家システムが同時に崩壊し、世界中が内戦状態に陥るという設定は、現時点においてはリアリティに乏しい。ここで作者が故意に無視しているのが、戦争の経済性という問題であり、この小説で行われているようなドラスティックなまでに場当たり的な戦火と暴力の拡大は、経済問題として不可能な回答だと思われる。作者はカタストロフィックなディストピアを描きたかったのかもしれないが、私の考えでは、それはもう少し異なった形で訪れると思う。
 その一方、本作は寓意的にバブル時代の首都近郊を描いたものではないか、という印象を受けた。それは舞台とされている茨城県北部や多摩ニュータウンが土地価格が狂乱していく中で、「郊外」という新たな人工の廃墟を生み出していったプロセスを象徴するエリアであるとともに、その時生じた価値の紊乱を本作が反復していると思われるからである。
 なお、本作は形式的には三人称小説となっているが、その文体は時折内的独白を孕んだ一人称小説にくずおれていく。それは、所謂地の文(語りの文章)で顕著である。その意味では本作の文体は決してハードボイルドの文体ではない。

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家なき鳥、星をこえるプラネテス 常盤陽著, 幸村誠原作(講談社2007年11月15日)

 プラネテスに登場する「宇宙防衛戦線」の孤独なテロリスト、ハキム・アシュミードにフォーカスしたサイドストーリーとなる小説である。
 もっとも、プラネテスは、幸村誠の原作マンガと谷口悟朗のアニメーションではその構成と内容がかなり異なるのだが、本作はマンガ(「サキノハカという名の黒い花」)のストーリーに接続する話となっている。
 舞台はプラネテスで設定された2060~2070年代の石油資源が枯渇したアラビア半島南端、現在のイエメン辺りに成立した新興国の南アラブ連合。
 砂漠の行商(トラックの隊商)の一人息子として育ったハキムだが、突然の父の死により、隊商は解散することになり、航宙士を目指すハキムは、その道に繋がっていると思われる新興国の陸軍に入隊することになる。
 だが、そこでハキムは自らの生に対する大きな幻滅-モスリムとして望む単純な生の形式が、この軍隊という社会や自らが志す航宙士の世界では決して不可能なこと-を知る。そこは米国や日本等の先進国のマネーや欲望が骨の髄まで浸透してしまった社会であり、彼の孤独に呼応する人々や、生の充溢はどこにも見出すことができない世界だった。彼の孤独はその時世界への憎悪へと転換する。

 「サキノハカという名の黒い花」とは宮沢賢治の以下の詩に由来するものだが、本作はそのモチーフをイスラムとしての生き方に接続しようとした試みとなっている。だが、その試みが成功しているかどうかは微妙なところだ。


サキノハカといふ黒い花といっしょに
革命がやがてやってくる
ブルジョアジーでもプロレタリアートでも
おほよそ卑怯な下等なやつらは
みんなひとりで日向へ出た蕈のやうに
潰れて流れるその日が来る
やってしまへやってしまへ
酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも
じぶんだけで面白いことをしつくして
人生が砂っ原だなんていふにせ教師も
いつでもきょろきょろひとと自分とくらべるやつらも
そいつらみんなをびしゃびしゃに叩きつけて
その中から卑怯な鬼どもを追ひ払へ
それらをみんな魚や豚につかせてしまへ
はがねを鍛へるやうに新らしい時代は新らしい人間を鍛へる
紺いろした山地の稜をも砕け
銀河をつかって発電所もつくれ

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石牟礼道子インタビュー

 先ほどNHKのクローズアップ現代が水俣病を取り上げ、石牟礼道子へのインタビューを放映した。
 番組は、国が水俣病に対する最終救済策としてしている「水俣病被害者の救済及び水俣病問題の解決に関する特別措置法」に基づく患者認定の最終申請期限が7月末日に迫っているにもかかわらず、多くの水俣病の診断を受けた患者が、申請した結果、救済対象として非該当であるという通知を受けている現状を告げている。
 なぜ、このような現状となっているのか。それは、認定対象者となるには、地域の限定と、年齢の限定があるからであり、前者については、不知火海沿岸部の特定沿岸部という線引きがあり、後者については、昭和44年以前に生誕した者という線引きがあるからである。
 水俣病発生から既に半世紀以上の時を経て、なおこの状況なのである。

 石牟礼道子へのインタビューは、これらの状況を受けて行われており、インタビューの放映時間は15分程度。
 彼女は現在85歳で、パーキンソン病を患っているそうで振戦麻痺の症状が見られ、映像的にはかなり痛々しいが、その言葉は思いのほかしっかりとしていた。
 インタビューの中で、彼女は既に亡くなった患者らの言葉を次のように紹介していた(正確な言葉ではないが)。

「東京へ行っても日本という国はなかった、どこに行っても日本という国はなかった」

「道子さん、私はもう許す。国も許す。チッソも許す。許さないと苦しくてかなわん。ばってん、私はまだ生きていたい。」

 彼女は、これらの水俣病患者により、われわれは許されて生きている。しかし、国やチッソは、その患者らの生活をズタズタに引き裂いておきながら、そのことを理解しようとしていないと、淡々と語っていた。

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