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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   

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西郷隆盛と“東アジアの共生” 高大勝著(社会評論社 2010年8月)

 明治6年の政変で、西郷隆盛や江藤新平が征韓論を唱えて下野したとされる歴史の通説については、毛利敏彦の仕事を端緒として、ほぼ覆されつつあるが、今の歴史の教科書にはどのように書かれているのであろうか。相変わらず、勝者(大久保利通・伊藤博文)側の観点にたった記述がなされているのだろうか。もし、そうであるならば、それはすぐにでも書き改めるべきであろう。
 本書の著者は自ら記しているように、在日コリアンの2世である。そのような著者が明治維新の功労者の中でも一際謎の多い西郷を論じて、「征韓論者」という西郷の虚像を覆し、幻想の東アジア連合という、あり得たかもしれない歴史的可能性の検証を試みたのが本書である。
 本書において、明治6年政変時の歴史的な考証については、概ね毛利敏彦が展開する議論の枠内にあるといえるが、本書の独自性は、西郷の出自と生い立ちにおいて朝鮮との親和性が生じる必然性を焙り出した点にあり、明治6年の時点で西郷が朝鮮使節として派遣されていたら、その後の東アジア史はまったく異なったものとなっていたのではないかという想像を誘う。
 (東アジアはともかく、明治6年の政変が西郷や江藤の側の勝利に帰していたら、その後の日本はまったく違った進路を歩んでいたのではないかという想像はすでに私の妄執のひとつとなっている。)
 西郷が生まれ育ったのは、鹿児島の下加冶屋町であるが、下加冶屋町は甲突川を挟んで高麗(これ)町と接している。この高麗町は、その名が示すように鹿児島における朝鮮系渡来人の集団居住地であり、本書が焦点を当てているのは、このような西郷の出自や、薩摩藩自体の朝鮮との交流史である。
 そもそも島津氏自体が秦氏の血を引く一族であるという議論はともかく(現在の島津宗家はこれを否定しているそうである)、秀吉の朝鮮出兵に駆り出された島津義弘は現地の陶工を拉致し、鹿児島に連れてくる。これが現在の薩摩焼の開祖となる人々であり、彼らは高麗町への転居を拒み、苗代川(現在の日置郡東市来町美山)に居を構える。
 薩摩藩はこれらの陶工の功績を評価・保護し、「朝鮮筋目の者」として藩の中で独自の地位を与えるようになる。
 本書によると、西郷は斉彬の参勤交代のお供として、幾度か苗代川を訪れ、当地の陶工と交流しているという。そのような交流の中で、朝鮮人の儒教思想と礼に厚い生き方に共感していたのではないか、というのが本書の論点のひとつである。
 また、今ひとつが、大久保と竹馬の友というのは、虚構の産物ではないかという説である。大久保が生まれたのは、先に示した高麗町であり、確かに西郷の生家とそう遠くはないようだが、同じ町内ではない。大久保の生い立ちには、謎が多く、幼少時に加治屋町に移り住んだと伝わっているが、それが何時かは定かでない。本書は、14歳までは高麗町で育ったという説をとっている。
 結局、大久保は岩倉ミッションへの参加で、ミッション前に有していた明治政府内部での立場を失っており、その失地回復のために、伊藤を奔らせ、岩倉を動かし、強引なクーデターをやらかした訳である。梟雄という言葉があるが、大久保は正に明治維新における梟雄である。常に自己保身と裏切りの影が見え隠れしている。そして、それを良しとする風潮が今の政治家や官僚に全て繋がっている。
 それはともかく、本書は内容の割りに筆致は冷静であり、よく調べて書いている。
 ただし、西郷論として読むと、西郷がもっていた暗さの部分を掬いきれていない感が残る。かつて、渡辺京二は西郷を「異界の人」「死者の国からの革命家」として論じていたが、本書の描き出す西郷には、そのような影の部分、(思想としての西郷の根幹)が抜け落ちていると感じられた。
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東西南北人(中島久夫)
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