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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   

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中二病となってしまったロマン主義

 京都アニメーション制作の「中二病でも恋がしたい!」が完結した。
 総監督は涼宮ハルヒシリーズや、Key原作のAir、カノン、クラナド等で実績のある石原立也。
 京アニでは初の試みとなる、原作を離れたアニメオリジナルのキャラクター等が登場する作品だそうだが、私は例によって原作は読んでいない。なお、本作の原作ライトノベルは、京都アニメーションがプロデュースしているKAエスマ文庫なるシリーズで刊行されているようだ。
 さて、舞台は、例によって高校だが、ハルヒシリーズがSF寄り、氷菓がミステリー寄りだったようには明確な傾向性は持たされていない。
 本作は、有り体にいうと、嘗て自らをダーク・フレイム・マスターと「設定」した中二病だったことを恥じている富樫勇太と、父の死という現実を受け止められず、自らを邪王真眼の持ち主と「設定」し、不可視境界線の彼方にあり得べき現実(失われた父親)を探し求めている小鳥遊六花とが織り成すドタバタラブコメディである。物語構成の点では、「中二病」という意匠を持ち込まずとも語りが成立するファミリー・ロマンスなのだが、そこにあえて中二病の挫折と再肯定というメタストーリーを重ね合わせたところがミソだろう。
 物語の終盤、勇太の説得により、六花は、一時は中二病を捨て「まとも」に生きようと試みるが、そうすることによってどうしようもない閉塞感に陥ってしまう。最終話、間違い?に気づいた勇太は、立花を迎えに行き、まるで「ロミオとジュリエット」とのバルコニーシーンのように構成された場面(彼らの友人達によって設えられた)で、六花に向かってこう叫ぶ。

>つまらないリアルへ戻るのか、それとも、俺と一緒にリアルを変えたいとは思わないのか

 うーん、こりゃ石川啄木か?と思ってしまうような台詞だが、ここにきて「中二病」という意匠も消費しつくされたな、という感が強い。
 勇太の腕のなかに飛び込んでいった六花は、勇太が幻視させた不可視境界線の彼方(実際は夜の水平線の先に揺らめく不知火、イカ釣り船の灯り?但し、立花はその現実を十分に承知している描写はなされている)の父に別れを告げて幕となるのだが、そこでとってつけたようなナレーションで、中二病は思春期の自意識過剰の産物ではあるが、人として避けては通れぬものであり、人は一生中二病だとのご託宣が告げられる。
 「中二病」という言葉は、伊集院光のラジオでの発言が嚆矢とされているようだが、こういう作品が作られてしまうと、この言葉の寿命もここまでかな、という気がする。
 そういえば先ほど、石川啄木の名を出したが、これらの精神的ルーツは高杉晋作あたりになるのかもしれませんな。

>おもしろきこともなき世をおもしろく
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Q

 使徒に吸収されてしまった綾波レイを救い出すことによって、それまでにない精神的高揚に達した碇シンジ。BGMは「翼をください-by林原めぐみ」。だが、その高揚の瞬間に、旧世紀版の最後のシ者:渚カヲルによって月から投擲されたロンギヌスの槍で凍結されてしまうヱヴァンゲリヲン初号機。宇多田ヒカルのエンドロール「Beautiful World」、そして葛城ミサト(三石琴乃)のナレーションによる予告編。

 あれから3年と少し経った。

 当初、Qは序破急の急だった筈だが、物語の構造としては、完全に起承転結の転となっていた。
 前作において、能動性への契機を見出したかにみえた碇シンジは再びその足場を喪失する。自覚なき罪障、他者から突き付けられる悪意と求められる贖罪。自覚なき罪を自覚するためのプロセス。そして、人類補完計画は次作へと留保される。

 まあ、そんなところだろうか。

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「氷菓」完結 Regionalismの再構築

 京都アニメーション制作の「氷菓」(全22話+1話(OVA)原作・構成協力:米澤穂信、監督:武本康弘)が完結した(既に先週のことだが)。
 「涼宮ハルヒの憂鬱」以降、雨後の筍の如く粗製乱造されている学園サークルもののアニメーションだが、この春~夏の期間だけも「Tari Tari」、「ココロ・コネクト」等といった作品が制作されている。これらの作品はいずれも5人グループのクラブ活動を描き、しかもその人員構成は大概女3人、男2人という涼宮ハルヒシリーズの男女構成比を踏襲している。
 しかし「氷菓」(原作は未読なのであくまでもアニメーションに準じて語るが)はこれと異なる女2、男2の4人の構成を取り、高校生男女2組が所属する古典部の1年間を描いている。本作の舞台は、飛騨高山をモデルとした山間の街神山市で、そこに所在する進学校の神山高校への新入生4人が主人公グループを構成している。
 その4人とは、生活上の省エネルギーを信条とするが、論理的な推理能力を有しているため、己の信条に反してしばしば探偵役を務めてしまうことになる折木奉太郎、豪農千反田家の一人娘で才色兼備の優等生、野生動物の如き鋭敏な感覚器官と無邪気な好奇心、そして素晴らしい料理の腕前を有する千反田える、奉太郎の友人で歩くデータベースを自認するも「データベースは結論を出せない」を信条とする福部里志、中学生の頃から福部里志に好意を寄せつつ、当の里志からはぐらかされ続けている図書委員で漫画研究会にも所属する伊原摩耶花である。
 本作は、この4人の古典部員が、その日常に遭遇する些細な謎をめぐるミステリーとなっており、それは例えば、神山高校の文化祭が何故「カンヤ祭」と呼ばれているのか、とか、文化祭で生じた悪意のみられない連続窃盗事件の犯人は誰か、といった形で出来するのだが、これらの謎や事件に対して、えるの「私、気になります」という言葉が発端となり、その無邪気な好奇心と、天然系の萌要素満載の追及に抗えない奉太郎が、それらの謎を解き明かしていく構成である。
 「原作に忠実に」をひとつの格率としている観のある京都アニメーションだが、本作もその例外ではないようで、描写の丁寧さはおそらく原作由来だろうが、神山市の風景描写や、古典部員たちの日常描写、そしてさりげなく丁寧な伏線の提示が見事であり、上質な時間の醸成に成功している。そして、彼らの1年間を通して、今地方に生きるということがどういうことか、という本作のサブテーマが浮き上がってくるように設えられている。

 最終話「遠まわりする雛」は、地元の伝統行事である「生き雛祭」で生雛を務めることになった千反田えるは、その傘持ち役を奉太郎に依頼するが、当初生雛の行列が通る予定の橋が工事で通れなくなっており、何故そんなことになってしまったのかが解き明かされるべき謎としてストーリーの主軸を成している。その謎は見事に奉太郎によって解き明かされるが、その帰り道、奉太郎と並んで歩くえるは、何故、今日奉太郎に来てもらったのかを告白する。

(える)無事大学に進学しても、私はここへ戻ってきます。
    どんなルートを辿っても私の終着点はここ、ここなんです。
(中略)
(える)私はここに戻ることをいやだとも、悲しいとも思っていません。
    千反田の娘として、相応の役割を果たしたいと思っています。
    そのための方法をずっと考えていました。
(奉太郎)方法、ねぇ...
(える)二つあると思います。
    ひとつは商品価値の高い作物を作ることでみんなで豊かになる方法、
    もうひとつは経営的戦略眼で経営を効率化し、みんなで貧しくならない方法、
    私は結局前者を選ぶことにしました。
(奉太郎)そのための理系選択か。
(える)はい。
(奉太郎)確かに、後のほうはあまりお前に向いていない気がする。
(える)ふっ。文化祭のとき、皆さんにさんざお手数をおかけしてわかりました。
    私、多分会社経営には向いていません。
(奉太郎)そうだな、そう思う、うん?
(える)見てください、折木さん、ここが私の場所です。水と土しかありません。
    人もだんだん老い、疲れてきています。
    私はここを最高に美しいとは思いません。
    可能性に満ちているとも思っていません。
    でも...折木さんに紹介したかったんです。

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黙示の島 佐藤大輔著(角川書店2002年9月)

 今のところ佐藤大輔が完成させた最後の長編小説だが、既に10年前の作品、離島における異常事態を描いた、SF&ホラー小説である。

 財団法人日本社会学研究所の研究員である主人公の伊倉浩一が、休暇のため訪れた鼎島は、人口500名程度の太平洋上の離島である。
 島には国民宿舎以外にめぼしい観光施設はないが、そこには超高齢化社会への対応のため、日本政府が実施するL2(ロング・ライフ)計画遂行のための実験施設である先端保険科学研究センターが設置されており、島民の大半はそのL2計画によって開発された腕時計型のバイオチップ統合分析システム(マイクロTAS)の運用試験に協力していた。
 マイクロTASは「内部に各種病原体蛋白質についての抗体を並べたコンビニのようなもの」で、それを身につけた人間は完璧な予防医療システムの庇護下に置かれている。また、マイクロTASにはDDSと呼ばれる「直径100ナノメートルのほどのミセル化ナノ粒子カプセルを用いたドラッグ・デリバリー・システム」が付随しており、マイクロTASによって読み取られた体調情報を基に、テーラーメイド化された薬品が備給される仕組みになっている。
 伊倉が島を訪れてまず目にするのは、異様な活力に満ち溢れた島民の姿である。離島の人口構成の特徴は、青年層の薄さにあるが、この島では高齢者と子供がとても元気がよく、生き生きしているように見えるのだ。そして、伊倉は上陸直後に、この島唯一の診療所の女医、マイクロTAS配布後は診療所を訪れる患者が激減し暇を持て余している能瀬睦美と知り合う。さほど風采が良くもない伊倉(佐藤大輔の主人公は大概そう描かれている)だが、出会ってすぐに睦美の好意を勝ち得るとともに、自らも思いのほか大胆に振る舞っていることに気づく。上陸翌日には既に二人は懇ろな関係となっている。
 しかし、二人が自らの欲望の噴出に驚きつつもその追求に余念がない中で、島では急速に異常な事態が進行していく。
 事件は駐在所の巡査の頓死から始まるのだが、その死体は無数の船虫に食い荒らされた無残なものとして発見される。その死体発見の直後から、島民たちの欲求と暴力の亢進に歯止めがかからなくなっていく。人々は次第に、誘い、犯し、争い、殺し合うようになり、島は地獄のような阿鼻叫喚と狂乱の巷と化す。
 一体、なぜ島はこのような状態になってしまったのか。
 島の変貌に気づいた二人は、その中で数少ない正常な意識状態を保持していた、高校生(いじめへの反撃による暴力事件で島の祖父の元に避難している軍事オタク)財津忠之と、剣道に生活の全てを賭けている美少女中学生真波由梨、そして忠之の祖父である財津君三郎と合流し、襲い来る島民を殺害し、生き残りをかけて事件の原因と推測される先端保険科学研究センターへと侵攻する。
 そこで五人を待ち受けていたのは...

 物語は、ざっと上記のような筋立てであり、バイオハザードものの典型のような構成は一見陳腐なものだが、佐藤大輔末期の文章の魅力は健在であり、ぐいぐいと読者を引っ張っていく力は相当なものである。
 ただ設定自体はそれなりに緻密なのだが、小説の結構の構想については、もう少し練りようがあったように思えるし、例えば小松左京あたりなら、本作の先をこそ描くようにも思えるが、それはないものネダリかもしれない。

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人類は衰退しました

 監督は岸誠二、原作は田中ロミオによるライトノベル。
 現在の人類が衰退して数世紀を経た世界で、調停官となった旧人類の少女(わたし)と、新人類の「妖精さん」との交流を描いた物語である。
 ジャパニメーションのみならず、サブカル系の表現で「人類」という用語が採用されている場合、それはたいてい「日本」や「日本人」の換喩となっている。それはあのオタク第一世代を生み出した「宇宙戦艦ヤマト」(今、折しもそれが「宇宙戦艦ヤマト2199」としてリメイクされているが)等に顕著だが、本作もその枠組み自体を免れるものではない。つまり、これは「日本は衰退しました」と読み取ることができる。
 しかし、「人類は衰退しました」がユニークなのは、それをシニカルな表現手法として採用している点にある。その意味では、本作はかなり異色な作品ということができる。
 そこに描かれているのは、一見メルヘンチックでのどかな世界であるが、新人類として地球の覇権を握った「妖精さん」は人類と異なる生存原理に貫かれているようで、ユーモラスかつ不可解な存在として旧人類を翻弄している。
 主人公の「わたし」は、その妖精さんやそれに翻弄される旧人類の愚かさにシニックな視線を向けつつ、自らも調停官としてそのドタバタに巻き込まれていく。
 なお、本作の原作をSF作家の野尻抱介はシンギュラリティ(技術的特異点)SFとして評価しているそうである。
 技術的特異点とは、「未来研究において、人類の技術開発の歴史から推測して得られる未来のモデルの正確かつ信頼できる限界(「事象の地平面」)」(Wikipedia)であり、SFという文学ジャンルは、確かにそのような特異点にかかる描写をひとつのパラダイムとしてきた。

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東西南北人(中島久夫)
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自己紹介:
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