廃藩置県の研究者として著名な松尾正人の明治初年における政権史である。
丁卯冬、即ち慶応3年の王政復古クーデターから、明治4年7月、廃藩置県の断行までの期間、政権を執った政府を本書は維新政権と規定している。そして本書では、その維新政権を明治元年から明治4年にかけて、単年毎に論述している。
この間の政府において行われた主な事跡としては、明治元年は五箇条誓文の発布と天皇の東行(事実上の東京遷都)、明治2年が二官六省の創設と版籍奉還の断行、明治3年が民蔵分離、明治4年が廃藩置県ということになるが、この間の主役はやはり三条実美と岩倉具視及び木戸孝允と大久保利通ということになる。
この廃藩置県の断行が明治4年の7月14日で、その4ヶ月後の11月12日(いずれも旧暦)に岩倉遣欧使節団が約1年半の長途へと出立する。この岩倉使節団には、この「維新政権」の立役者4名中3名が参加しており、居残りは三条実美のみとなっている。
このことは、岩倉ミッションが如何に大掛かりなものであったのかを示すとともに、使節団参加メンバーと留守政権とを政治的に分かつことになる訳だが、その部分については本書の主要な論述対象とはなっていない。
けれども本書は、明治6年の政変と「征韓論」については、毛利敏彦以前の通説を踏襲する見解をとっている。
本書の基本的な部分は、丹念な文献精査の積み重ねによって書かれており、一つ一つの事跡に関する論評は、私のような素人が反駁する余地のないものといえるが、トータルな読後感は、そりゃ違うんじゃないの、という感が強く残った。
これが歴史の恐ろしさというべきか、明治6年の政変の捉え方ひとつで、全般的な認識が大きく異なってくるのである。
それから、本書には長三洲が二箇所において登場する。一つは「新聞雑誌」の発刊者として、今ひとつは「新封建論」の著者静妙子としてである。
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