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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   

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女子学生、渡辺京二に会いに行く 渡辺 京二×津田塾大学三砂ちづるゼミ著(亜紀書房 2011年9月24日)

 渡辺京二「逝きし世の面影」に感動した津田塾の「多文化・国際協力コース 国際ウェルネスユニット」三砂ちずるゼミの女子大生と渡辺京二の2日間のセッションの記録である。
 具体的には、女子学生6人に卒論の梗概を語らせ、また、3人のゼミ卒業生に現況を語らせ、それをネタに御齢80歳の渡辺京二がいいたいことを言うという、ただそれだけの本である。いわば津田塾の女子大生が渡辺京二に説教のネタを提供し、そのネタを渡辺京二がうまそうに味わいながら、たんたんと説教する本である。

 しかし、今こういう言葉を吐かせて渡辺京二の右に出る爺様は、そうは他にいないことも事実で、一読巻を置くこと能わず、天神の本屋で購入して読み始めたら、九州からの出張帰りで一気に読んでしまった。
 セッションの終わりに、渡辺京二は「無名に埋没せよ」と題する説教をかましてくれるが、これがまた良い。

 そこで渡辺は、一種の「観念的倒錯」を戒めているのだが、例えば、若かりし笠井潔が「テロルの現象学」で必死に乗り越えようとしたアポリアと同型の問題を、今どきのマジメな女子大生にしっかりと等身大の問題として認識させ、なおかつそこから解き放つ道を平明な言葉で指し示してしまうという、奇跡のような説教を行なってみせる。
 恐るべき爺様である。
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Self-Reference ENGINE 円城塔著(早川書房 2010年2月10日)

 非常に手の込んだ冗句、だが、手が込み過ぎていて笑うに笑えないというのが正直なところか。

 Self-Reference ENGINEとは、直訳すれば「自己言及の原動機」ということになるが、自己言及的な結構を取り入れた小説、というより物語と隣接する表現形式は古来より数多く、それらをイチイチ指摘しはじめると枚挙に暇がなくなる。そのような自己言及のパラッドクスを主題とすることは、この種の表現形式が孕むジャンル構成の危機において要請される典型的なモードであるということができる。この種の表現が要請しているのは、たいていの場合、読者論である。

 本書はオムニバス短篇の集積によって構成された長篇SF小説ということになっている。勿論、その看板に偽りはないが、この形式も私の好みではないということは言っておく。

 ここで内容を逐次言挙げすることはしない。その種のものが読みたい方は文庫版の佐々木敦の解説を繙けばそれで済むからである。

 ただ、本書に関する印象を類比的に示しておくと、本書のエンジンは同じエンジンでも内燃機関のエンジンではなく、外燃機関のスターリングエンジン (Stirling engine)をイメージさせる。スターリングエンジンとは、シリンダー内のガスを外部からの加熱や冷却によってエネルギーを得る外燃機関で、理論的には高効率のエネルギー変換を可能にするシステムであることが早い段階から指摘されているのだが、実用性の点でさっぱり...というものである。

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「フクシマ」論 原子力ムラはなぜ生まれたのか 開沼博著(青土社 2011年6月16日)

 先日、福島県相馬郡飯舘村に行く機会を得た。
 ご存知のように、飯舘村は2011年4月22日に計画的避難区域に指定されており、現在、住民の大半は村外に避難しており、村はほぼ無人の状況となっている。
 同地を訪れたのは初めてであったが、一見長閑な里山の間に拡がる田畑が無人の野と化し、秋晴れの陽光の中、恐ろしいほどに静まりかえっていた印象が強い。家々に人の影はなく、放棄された耕作地の至るところにススキやセイタカアワダチソウが繁茂し、秋の風に揺れていた。
 おそらく、家々の佇まいはあれほどの地震を経た割りには従前とさほどの違いはないように思えるのだが、無人であることにより、それは既に廃墟の様相を呈していた。

 本書は、東京大学の大学院生が3.11直前に取りまとめた修士論文であるが、福島の原子力発電所がどのようにしてその地に成立していったかを、丹念に調べ上げ、それが、大東亜戦争敗戦後の日本社会にとって、外部植民地を奪われ「内なるコロナイゼーション」のメカニズムにより発動し、やがて「自動化・自発化」していったという仮説のもとに考察を加えている。
 ここで「原子力ムラ」と呼ばれているものには、原子力発電所が立地してきたムラと、中央における産官学の原子力業界が構成する閉鎖的な社会構成とが掛け合わされており、それを繋ぐメディエーターとして地方行政が機能してきたのではないかと論じられている。
 著者の展開する社会学的議論の当否はさておき、ここで明らかにされている原子力ムラの構成は、この国で生きる限り、誰もが骨絡みの問題として直視せざるを得ない問題ということができる。
飯舘村の現状はその帰結の一つと言わざるを得ないものであるが、結論は何も出ていない。

 そういえば、脱原発論議が高まる中、かつて「反核異論」をものした吉本隆明が、脱原発異論を展開している。吉本の議論は、原子力そのものは人知が勝ち得たプロメテウスの火であり、それを今放棄することは人として生きることを放棄することと同義であるというものである。87歳にして吉本節健在というところではあるが、その議論を現実のものとして立たせるためには、今やこの国から失われてしまったようにみえる思考の強靭さが必要だと思われるがどうだろうか?

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R.I.P. レスト・イン・ピース 杉山幌著(講談社 2009年10月2日)

 一人称小説である。
 おそらくは今から数年後から十数年後、そうなっているかもしれない日本。

++ここはどこにでもある一つの街だ。先住民系と移民系の二つのサッカークラブがある。一見対立しあっているが、実はそんな簡単じゃない。グループは先住民系、中華系、ラテンアメリカ系の三つに分かれる。言語的には日本語、中国語、ポルトガル語、スペイン語の4つになる。(改行)4つの言葉を話し、3つに分かれた体を持ち、2つの心が溶け合う、1人の人間。(改行)それがこの街だ。ここで生まれ育った誰もが、この街を自分の内に持っている。(p.255)

 この小説は、そんなふうにグローバル/グローカル化してしまった日本の地方都市を舞台として設えた冒険小説であり、主人公は、先住民系高校生の「おれ」である。

 おれには、ブラジル系移民のフットボールフリークスでダービーマッチに熱狂するジオと、ドグラマグラを愛読するミステリマニアで、この街に広く移民を受け入れる決断をした市長の孫であり、それを誇りに思うと共に、そのことを誇りとすることができず、純潔主義者と結託しようとしている父親に抗うサチコという、同級生の二人の友がいる。

 よくある青春のトリアーデだが、ある日ジオが不慮の死を遂げてしまうところから物語は動き出す...とまあこのような展開なのだが、その文体に漂う本格感とドライな世界構築にはどことなく伊藤計劃を彷彿とさせるものがある。

 今後に期待したい。

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spica 泉和良著(講談社 2008年11月5日)

SPICA:おとめ座α星で学名はα Virginis(略称はα Vir)。春の夜に青白く輝く1等星である。連星(二重星を伴う四重分光連星の主星と伴星からなる五重連星)で、変光星(ケフェウス座β型変光星)でもある。-by Wikipedia

 スピカは、乙女座の主星でなおかつ連星(肉眼ではひとつの星にしか見えない)であるという特徴から、昨今のライトノベルやコミック等で、しばしば恋愛のメタファーとして採り上げられているが、それらのスピカをライトモチーフとした作品群の中でも、本作は恋愛小説として白眉のものといっても良い。

 作者に関する予備知識は全くなく、台風で電車が止まってしまった日に、足止めをくった北千住のブックオフで、「エレGY」「ヘドロ宇宙モデル」(いずれもKODANSHA BOX)とともに入手した。3作の中では本作が最も純度の高い結晶のような恋愛小説になりおおせていると思う。

 ストーリーを言ってしまえば、一度失恋した同じ相手と再度の失恋に陥るというものだが、主人公(水井)はその二度目の絶望の中で、恋愛のどうしようもなさ(不可避であること、交換不能であること)と、恋愛において愛するということがいかに困難であるか(愛の不可能性)という背理による背骨を折られるような痛苦を通して、初めて恋人(遥香)の心の痛みに思い至る。

 ベタな展開ではあるのだが、それを一気呵成に読ませる作者の筆力はなかなかのものであるとともに、本質的なものに届いているということができる。

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東西南北人(中島久夫)
性別:
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自己紹介:
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