本作、伊藤整文学賞を受賞したとのことであるが、確かに、我執の妄者共が、これでもかという位に下劣な行為を繰り広げ、活躍する様を延々と描き続けたところは、晩年の伊藤整の「氾濫」等の諸作を思わせるところがなきにしもあらずで、小説としてはそれなりに面白く、強引に読ませる力量は並大抵のものではないのだが、結果として、そこに描き出されたものが何だったのかといわれると心もとない印象しか浮かばない。
舞台は、著者の出身地である実在の山県県東根市神町で、かつて米軍が駐留しパンパンの町と呼ばれたことがあるくらい風紀が紊乱したこともあり、現在も自衛隊の駐屯地がある、田舎町としては特異なバックグラウンドを持った小さな街である。
そこに、エロとグロが大好きで、さくらんぼや桃の名産地としてののどかな町の在りように我慢がならず、覗き趣味の変態サークルを構成する小悪党の青年たち、そして、その青年の一人の父親であり、町の実力者である産業廃棄物の処分場建設を推進する悪徳市議会議員とその家族、長年その懐刀として、悪事に手を染めてきた町の顔役であるパン屋の主人とその家族、パン屋の主人の元愛人で地元のスナックや博打場を運営する女ヤクザとその家族、これら三家族と、スナックの従業員に入れあげ借金苦にあえぐ巡査部長や幼女愛玩趣味を有する新米巡査等を構成員とする神町交番の面々が配されている。
その、本来はのどかであるはずの田舎町に、立て続けに謎の怪死事件や行方不明事件が起こり、台風が襲来し、洪水に見舞われ、不発弾が爆発し、UFOが出現する。
本作は、いわば群像劇であり、神町という閉域を舞台とした、一種の幻想的な叙事詩となるべき構成となっているのだが、登場人物たちの造型は、ある種その構成を裏切って喜劇的なのである。結果として、何かチグハグな読後感の残る中途半端な作品となっている。
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