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東西南北舎

東西南北舎は東西南北人の活動に伴い生成したテクスト群の集積地である。「東西南北人」は福岡の儒者亀井南溟が秘蔵した細川林谷篆刻の銅印。南溟の死後、息子の亀井昭陽から、原古処、原釆蘋、土屋蕭海、長三洲へと伝わり、三洲の長男、長壽吉の手を経て現在は福岡県朝倉市の秋月郷土館に伝承されたもの。私の東西南北人は勝手な僭称であるが、願わくば、東西南北に憚ることのない庵舎とならんことを祈念してその名を流用させて頂いた。

   
カテゴリー「SF」の記事一覧

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劉慈欣の『三体』の翻訳完結

中華SFの雄、劉慈欣の『三体』三部作の翻訳が完結した。
最近、結構SFづいていて、『三体』三部作も楽しく読ませてもらった。

三部作を通しての展開は見事なものであり、紛れもない傑作だとは思うのだが、私の求めるSFからすると、物語として整い過ぎているようにも感じられた。
読書の楽しみとしては、物語として整っている(いい具合に読者を裏切ってくれることを含めて)ことは大切な事なのだが、私がSFに求めているのは、そのような物語性をも破壊してしまうような衝撃なのかもしれない。これは悪く言えば、単なるナイモノネダリなのかもしれないが、かつてA.C.クラーク、P.K.ディック、S.レム、小松左京といった作家が描いた作品のいくつかはそこを超えて、あたかも眩暈を覚えるようなクラクラするヴィジョンを提示しえていたのではないか、とも思うのだ。
本書の監訳者の大森望氏は、本書の❝センス・オブ・ワンダー❞を高らかに評価しているが、私にはそれほどの驚きは感じられなかった。これは私が鈍くなってしまったのか、それとも歳をとってしまったということなのか?

また、『三体』については、作者の登場人物への愛?故か、登場人物を生かし過ぎているようにも感じられた。典型的なのが、第Ⅲ部における程心(チェン・シン)である。『三体』の第Ⅲ部「死神永生」は壮大な時空を経巡る物語であり、その主人公はいわば一種の観照者であり、それ故程心のような人物が主人公に据えられたのかもしれないが、この壮大な時空をめぐる物語が彼女のフィルターを通して語られると、何だか朦朧派の水墨画を眺めているかのように曖昧模糊としたものに思われるのだ。にも関わらず、程心はやはり本書の主人公であり、彼女の(何もしないという)選択により物語が動いていく。
これは不埒な物言いかもしれないが、例えば、野崎まどであれば、このような主人公(そうすると「主人公」とは呼べないのかもしれないが)は、容赦なくその序盤で退場させられてしまうだろう。つまり、そうなれば、物語の展開もまるっきり異なったものになってしまうということだが......
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長谷敏司 BEATLESS (角川書店 2012年10月10日)

 「あなたのための物語」で、物語を紡ぐ人工知性、ITP(Image Transfer Protocol)言語で記述され、量子コンピュータ上で稼動する仮想人格《wanna be》を描いた長谷敏司が、超高度AI、そして擬似的な身体を獲得した人型AI(ロボット)が普及した社会と、それらの誕生が人間存在に突きつける難問を描ききった意欲作、文句なしの傑作だと思う。
 時は100年後の未来、22世紀の東京。街にはhIE(humanoid Interface Elements:略称として「インターフェース」のルビが振られている)と呼ばれる人型ロボットが溢れ、社会的労働の大半はhIEに任されている社会。一般的なhIEは、人体ができることならだいたい肩代わりできる水準に達しており、人々の生活はhIEなしでは一歩も立ち行かない状態となっている。
 hIEの動作はクラウド上のさまざまな行動管理アプリケーションにより規定されており、それらのクラウドアプリケーションは、AASC(Action Adaptation Standard Class:行動適応基準)の管理基準に従って処理されている。AASCそのものを管理・更新するのはミームフレーム社が有する超高度AI《ヒギンズ》の役割だが、超高度AIがネットワークに接続されてしまうと人間による制御が効かなくなる可能性が高いため、《ヒギンズ》や他に40基ほど存在するとされている超高度AIはネットワークに直接接続できないように慎重に管理されている。《ヒギンズ》は自己の電脳世界に正確な世界のミニチュアを形成し、ネットワーク上に繋留されたhIEのセンサーデータから翻訳されたメタデータをミニチュア世界に投影して間接処理することでAASCの管理・更新を行っている。
 物語は、このような社会に生きる高校生、遠藤アラトのもとにとびきりのhIEレイシアがやってくることから始まる。新小岩で中学生の妹ユカと二人暮しをしているアラトは、買い物に出かけた途中で爆発事故に巻き込まれ、そこで「淡い紫色の髪」、「アイスブルーの瞳」、「化粧っけがないのに肌の艶と目鼻立ちだけで視線を引き留めさせる、凄みのある美しさ」を備えた女性型hIEレイシアに危機を救われる。一目で通常のhIEとは異なることのわかるレイシアだが、レイシアはアラトに自らのオーナーになることを要請し、契約が交わされる。
 レイシアは、class Lacia humanoid Interface Elements Type-005 Code《レイシア》であり、ヒギンズが製作した5体のhIEのうちの一体で、それらのhIEは量子コンピュータを搭載したデバイスを装備し、ネットワーク支援なしで高度な判断を行う能力を有する自立型のAIである。レイシア級には、他にType-001 Code《紅霞》、Type-002 Code《スノウドロップ》、Type-003 Code《サトゥルヌス》、Type-004 Code《メトーデ》の4体が存在するが、それらはいずれも女性型hIEでそれぞれ異なる役割を付託されたものとしてヒギンズによって創造された。
 ところがある日、これらの5体のhIEがミームフレーム社の管理を離れ、逃走する。hIEは本来管理クラウドの制御のもとにあり、逃走すること自体有り得ないことなのだが、レイシア級の5体は、超高度AIがその能力を駆使して創り上げた《人類未到産物(レッドボックス:人類の思考能力を上回る超高度AIによる理論的探求によって見出された人類の理解の範疇を超えた産物》であり、そこにはヒギンズの複雑な計算を経た意図が介在しているのだ。
 物語は、アラトとレイシアの関係を軸に、人々や超高度AIの思惑が様々に絡み合いながら展開し、やがてアラトは「ヒト」と「モノ」との関係において根源的な変容を孕む選択を迫られる。

 AI或いは超高度AIにしても、それらがどれ程高度な知性を有していても、それ自体は心を有するものではなく、あくまでもモノであり人間の道具として造られる。だが、やがて人はそのモノの形状(視覚情報)に魅了(Analog hack)され、そのモノが有するであろう人知を超えた知性は神の領域に達するのかもしれない。果たして、そのようなモノの存在を前にして、ヒトの存在意義はどのように在ることができるのか?
 本作はその終局において、そのようなモノとの関係の新たな段階への到達を人類の「幼年期の終わり」として提示してみせる。クラークの『幼年期の終わり』が《Over Mind》と呼ばれる純粋知性体を観念的に描き出したものだとするなら、本作のそれは、現在のテクノロジーの延長線上に見出せる唯物論的な進化の階梯の可能性をはじめて提示し得たものといえるのかもしれない。
 1980年代後半、蓮實重彦は柄谷行人とともに「魂の唯物論的擁護」(闘争のエチカ)という極めて観念的に倒錯した言説を展開してみせたが、本作の記述は、端無くもその言葉を思い出させた。蓮實や柄谷が展開したのは空疎な言説に過ぎなかったのだが、本作の達成は、その空疎な言葉に内実を伴った陰影を与えることに成功していると思う。

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黙示の島 佐藤大輔著(角川書店2002年9月)

 今のところ佐藤大輔が完成させた最後の長編小説だが、既に10年前の作品、離島における異常事態を描いた、SF&ホラー小説である。

 財団法人日本社会学研究所の研究員である主人公の伊倉浩一が、休暇のため訪れた鼎島は、人口500名程度の太平洋上の離島である。
 島には国民宿舎以外にめぼしい観光施設はないが、そこには超高齢化社会への対応のため、日本政府が実施するL2(ロング・ライフ)計画遂行のための実験施設である先端保険科学研究センターが設置されており、島民の大半はそのL2計画によって開発された腕時計型のバイオチップ統合分析システム(マイクロTAS)の運用試験に協力していた。
 マイクロTASは「内部に各種病原体蛋白質についての抗体を並べたコンビニのようなもの」で、それを身につけた人間は完璧な予防医療システムの庇護下に置かれている。また、マイクロTASにはDDSと呼ばれる「直径100ナノメートルのほどのミセル化ナノ粒子カプセルを用いたドラッグ・デリバリー・システム」が付随しており、マイクロTASによって読み取られた体調情報を基に、テーラーメイド化された薬品が備給される仕組みになっている。
 伊倉が島を訪れてまず目にするのは、異様な活力に満ち溢れた島民の姿である。離島の人口構成の特徴は、青年層の薄さにあるが、この島では高齢者と子供がとても元気がよく、生き生きしているように見えるのだ。そして、伊倉は上陸直後に、この島唯一の診療所の女医、マイクロTAS配布後は診療所を訪れる患者が激減し暇を持て余している能瀬睦美と知り合う。さほど風采が良くもない伊倉(佐藤大輔の主人公は大概そう描かれている)だが、出会ってすぐに睦美の好意を勝ち得るとともに、自らも思いのほか大胆に振る舞っていることに気づく。上陸翌日には既に二人は懇ろな関係となっている。
 しかし、二人が自らの欲望の噴出に驚きつつもその追求に余念がない中で、島では急速に異常な事態が進行していく。
 事件は駐在所の巡査の頓死から始まるのだが、その死体は無数の船虫に食い荒らされた無残なものとして発見される。その死体発見の直後から、島民たちの欲求と暴力の亢進に歯止めがかからなくなっていく。人々は次第に、誘い、犯し、争い、殺し合うようになり、島は地獄のような阿鼻叫喚と狂乱の巷と化す。
 一体、なぜ島はこのような状態になってしまったのか。
 島の変貌に気づいた二人は、その中で数少ない正常な意識状態を保持していた、高校生(いじめへの反撃による暴力事件で島の祖父の元に避難している軍事オタク)財津忠之と、剣道に生活の全てを賭けている美少女中学生真波由梨、そして忠之の祖父である財津君三郎と合流し、襲い来る島民を殺害し、生き残りをかけて事件の原因と推測される先端保険科学研究センターへと侵攻する。
 そこで五人を待ち受けていたのは...

 物語は、ざっと上記のような筋立てであり、バイオハザードものの典型のような構成は一見陳腐なものだが、佐藤大輔末期の文章の魅力は健在であり、ぐいぐいと読者を引っ張っていく力は相当なものである。
 ただ設定自体はそれなりに緻密なのだが、小説の結構の構想については、もう少し練りようがあったように思えるし、例えば小松左京あたりなら、本作の先をこそ描くようにも思えるが、それはないものネダリかもしれない。

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南極点のピアピア動画 野尻抱介著(早川書房 2012年2月23日)

 野尻抱介、なんと五年ぶりの新刊だそうである。
 本作は、表題作で提示された世界観のもと、以下三編の連作によって、ネットと宇宙開発、そして地球外知的生命体とのファーストコンタクトまでを含めたひとつのストーリーを構成している。
 なお、掉尾を飾る「星間文明とピアピア動画」は書き下ろし作品である。
 以下、各編のテーマを簡単に示すと、

 南極点のピアピア動画:月への隕石衝突によって生じた地球の双極ジェットによる宇宙旅行(宇宙男)プロジェクト
 コンビニエンスなピアピア動画:放射線によって突然変異した蜘蛛が吐き出す炭素繊維による軌道EV開発プロジェクト
 歌う潜水艦とピアピア動画:ボーカロイドを搭載した潜水艦による海獣(ここではクジラ)との対話と、海底に潜んでいた地球外知的生命体とのファーストコンタクト
 星間文明とピアピア動画:人類とのファーストコンタクトを成し遂げた地球外知的生命体が、対人類接触用のインターフェースとしてボーカロイドの身体を採用し、人類社会の中で自己増殖する過程を描いたもの

 ここで軸に据えられている「ピアピア動画」とは(株)ドワンゴが運営するニコニコ動画をモデルとしたものだが、本作ではP2P技術を採用し既存のTVより普及したメディアになったものと設定されている。
 また、表紙カバーに描かれているツインテールの少女は、やはり近頃のファミリーマートのCM等でもお馴染みのボーカロイド「初音ミク」をモデルとしているが、本作では、それは「小隅レイ」として登場する(このネーミングは、ラリイ・ニーブンやJ.P.ホーガンの翻訳等で知られる小隅黎(柴野拓美)に由来している)。
 だが、今回のファミリーマートの初音ミクによるプロモーションは、寧ろ本作からコンセプトを頂戴したものだろう(これまた本作には「ハミングマート(ハミマ)」なるコンビニエンスストアチェーンが登場する)。
 そして、ここまで語れば、本作の示すファーストコンタクトのヴィジョンがどのようなものとなっているかは、ある程度想像がつくだろう。非常に楽天的かつヲタクな展開ではあるのだが、それを見事に押し通してしまうところは、流石に野尻抱介である。
 あとは、読んだ方のお楽しみということで。

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星海大戦 元長柾木著(講談社 2011年4月15日)

 人類の生活圏が太陽系全域を蔽う100天文単位(AU)の宙域に拡がったおよそ300年後の世界。
 そこに萌え要素のみで構成されたエイリアン《敵(ファイアント)》が現れ、地球人は地球を含む内惑星域から追い払われ、小惑星帯から木星圏の住人によるユニオンと土星圏以遠の住人によって構成されるクラスタの二つの政体に分裂し、相争っている。
 本作はそんな世界を舞台とした、本格スペースオペラである。いうなれば、本作は「銀河英雄伝説」の縮小再生産といった構えで、宇宙空間での艦隊戦なんぞという絵空事を何とかリアリティをもって描き出そうという無謀な試みなのだが、その挑戦には拍手を贈りたい。
 既に第二巻も発売されているようで、一応続きも読んでみようと思っている。

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東西南北人(中島久夫)
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