プラネテスに登場する「宇宙防衛戦線」の孤独なテロリスト、ハキム・アシュミードにフォーカスしたサイドストーリーとなる小説である。
もっとも、プラネテスは、幸村誠の原作マンガと谷口悟朗のアニメーションではその構成と内容がかなり異なるのだが、本作はマンガ(「サキノハカという名の黒い花」)のストーリーに接続する話となっている。
舞台はプラネテスで設定された2060~2070年代の石油資源が枯渇したアラビア半島南端、現在のイエメン辺りに成立した新興国の南アラブ連合。
砂漠の行商(トラックの隊商)の一人息子として育ったハキムだが、突然の父の死により、隊商は解散することになり、航宙士を目指すハキムは、その道に繋がっていると思われる新興国の陸軍に入隊することになる。
だが、そこでハキムは自らの生に対する大きな幻滅-モスリムとして望む単純な生の形式が、この軍隊という社会や自らが志す航宙士の世界では決して不可能なこと-を知る。そこは米国や日本等の先進国のマネーや欲望が骨の髄まで浸透してしまった社会であり、彼の孤独に呼応する人々や、生の充溢はどこにも見出すことができない世界だった。彼の孤独はその時世界への憎悪へと転換する。
「サキノハカという名の黒い花」とは宮沢賢治の以下の詩に由来するものだが、本作はそのモチーフをイスラムとしての生き方に接続しようとした試みとなっている。だが、その試みが成功しているかどうかは微妙なところだ。
サキノハカといふ黒い花といっしょに
革命がやがてやってくる
ブルジョアジーでもプロレタリアートでも
おほよそ卑怯な下等なやつらは
みんなひとりで日向へ出た蕈のやうに
潰れて流れるその日が来る
やってしまへやってしまへ
酒を呑みたいために尤らしい波瀾を起すやつも
じぶんだけで面白いことをしつくして
人生が砂っ原だなんていふにせ教師も
いつでもきょろきょろひとと自分とくらべるやつらも
そいつらみんなをびしゃびしゃに叩きつけて
その中から卑怯な鬼どもを追ひ払へ
それらをみんな魚や豚につかせてしまへ
はがねを鍛へるやうに新らしい時代は新らしい人間を鍛へる
紺いろした山地の稜をも砕け
銀河をつかって発電所もつくれ PR
COMMENT